好きな映画で性格がわかる? 心理学の研究でわかっていること
「好きな映画を聞けば、その人のことがだいたいわかる」—— 初対面の会話でも、SNSでも、よく語られる話です。 では、これは本当に確かめられているのでしょうか。
結論から言うと、映画の好みと性格のあいだに関係があること自体は、実際に研究で確認されています。ただし「関係がある」の中身は、多くの人が想像するよりずっと限定的です。 この記事では、この分野でよく参照される研究を1本取り上げて、 わかっていることと、わかっていないことを分けて整理します。
3,000人以上に108ジャンルの好き嫌いを聞いた研究
取り上げるのは、ケンブリッジ大学のPeter J. Rentfrowらが2011年に学術誌『Journal of Personality』で発表した研究です。 音楽・映画・書籍・テレビの108のジャンルについて「どのくらい好きか」を尋ね、 大学生1,939人・インターネット調査503人・地域住民725人という3つの独立したグループで調べています。
この研究が面白いのは、メディアの種類をまたいで好みをまとめ直したことです。「映画の好み」「音楽の好み」と分けて考えるのではなく、 108ジャンル全部をまとめて分析したところ、 人の好みは5つのまとまりに分かれました。 つまり人は「映画だから」「音楽だから」で選んでいるのではなく、媒体が何であれ、似た中身のものを好む傾向がある、ということです。
映画の好みは5つのまとまりに分かれた
論文で示された5つのまとまりと、そこに含まれる映画ジャンルは次のとおりです。
Communal(共感)
映画では: ロマンス、ファミリー
恋愛小説、昼のトーク番組、昼ドラ、ポップスなども同じまとまりに入ります。人と人の関係や感情を描くものです。
Aesthetic(美的)
映画では: 外国映画、名作・古典
詩集や美術書、クラシック、オペラと同じまとまり。論文では「創造的で、抽象的で、教養的で、密度が高く、読み解く負荷がかかる」と説明されています。
Dark(ダーク)
映画では: ホラー、カルト
パンクやヘヴィメタル、深夜番組と同じまとまり。「強度・とがり・快楽志向」で特徴づけられています。
Thrilling(スリル)
映画では: アクション、SF
アクション小説やスパイもののドラマと同じまとまり。アクション、冒険、サスペンス、ファンタジーが共通のテーマです。
Cerebral(知識)
映画では: ドキュメンタリー
ビジネス書やニュース、報道番組と同じまとまり。映画ジャンルではドキュメンタリー1つだけが入る、事実志向のまとまりです。
性格との関係で、はっきりしていること
この研究では性格をビッグファイブ(開放性・誠実性・外向性・協調性・情緒安定性という、性格研究で最も広く使われる5つのものさし)で測っています。
もっともはっきりした関係は、「開放性」と Aesthetic(外国映画・古典)の結びつきでした。相関係数は自己申告で .50、本人をよく知る他人が性格を評価した場合でも .46です。
相関係数(そうかんけいすう)は、2つのものがどれくらい連動して動くかを −1〜1で表した数値です。0なら無関係、1なら完全に一致。 心理学では .50 は「かなり強い」部類に入りますが、 それでも片方からもう片方を説明できるのは全体の4分の1程度にすぎません。残りの4分の3は、性格以外の何かで決まっているということです。
他人の評価でも同じ結果が出た、というのは地味ですが重要な点です。 「自分は芸術的な映画が好きだと思いたい」という願望だけで説明できる数字ではない、 ということを意味します。
そのほか、論文のTable 5で有意とされた関係には次のようなものがあります。
- 協調性が高い人ほど Communal(ロマンス・ファミリー)を好む(自己 .24 / 他者 .15)
- 協調性が高い人ほど Dark(ホラー・カルト)を好まない(自己 −.18 / 他者 −.09)
- 誠実性が高い人ほど Dark を好まない(自己 −.13 / 他者 −.10)
- 開放性が高い人ほど、意外にも Thrilling(アクション・SF)を好まない(自己 −.16 / 他者 −.22)
そして、はっきりしなかったこと
ここが、この種の記事ではあまり紹介されない部分です。
5つのまとまりのうちThrilling(アクション・SF)だけは、性格との関係が別のグループで再現しませんでした。論文は、2つのサンプル間で相関パターンの一致度を計算した結果、 他の4つは平均 .62 だったのに対しThrilling は −.03で、「この因子に関連する性格特性は他のサンプルに一般化しない可能性がある」と明記しています。 実際、インターネット調査のグループでは、性格を加えても予測精度が統計的に有意には上がりませんでした。
アクションやSFは、日本でも「好きな映画」に挙がりやすいジャンルです。つまり、いちばんよくある映画の好みについては、性格との関係が確かめられていないということになります。
性格より強く効いていたもの
もう一つ、見落とされがちな結果があります。この研究では、性格よりも性別のほうが、映画の好みを強く説明していました。
論文が報告している平均的な関係の強さは、性別が .27 で最も大きく、 以下、推論能力 .16、学歴 .15、年齢 .13、人種 .04 と続きます。 とくに Communal(ロマンス・ファミリー)を好む傾向は、 女性であることと3つのグループすべてで強く結びついていました(.59 / .41 / .53)。
「あの人がロマンス映画を好きなのは、優しい性格だからだ」と考えたくなりますが、 データを見るかぎり、性別や年齢や学歴のほうが先に効いている可能性が高い、ということです。 もちろん性別そのものが原因というより、 どんな作品に触れて育つかという環境の違いが背景にあると考えられます。
この研究の限界
著者ら自身が挙げている限界もあります。データがすべて自己申告であることです。人は「社会的に良く見えるジャンル」を好きだと答えてしまう可能性があり、 実際の視聴履歴や購入履歴で調べたら違う結果になるかもしれない、と論文は述べています。
加えて、これは相関を調べた研究であって、因果を示したものではありません。「開放的な性格だから外国映画を好きになる」のか「外国映画をたくさん観たから開放的になった」のか、 この研究だけでは区別できません。調査対象も主に欧米圏で、日本の観客にそのまま当てはまる保証もありません。
まとめ:映画の好みから性格は「わかる」のか
- 映画の好みと性格に関係があることは、3,000人以上の調査で確認されている
- 最もはっきりしているのは「開放性 × 外国映画・古典」。他人の評価でも再現した
- ただし最も強い関係でも、説明できるのは全体の4分の1程度
- アクション・SFの好みについては、性格との関係が再現していない
- 性格よりも、性別・学歴・年齢のほうが強く効いている
まとめると、映画の好みは性格をうっすらと映す鏡ではあるけれど、診断書ではない、というのが現在わかっていることです。
参考文献
Rentfrow, P. J., Goldberg, L. R., & Zilca, R. (2011). Listening, Watching, and Reading: The Structure and Correlates of Entertainment Preferences. Journal of Personality, 79(2), 223–257. doi:10.1111/j.1467-6494.2010.00662.x
映画に関連した診断サイト
最後に、映画に関連した診断ができるサイトをいくつか紹介します。 ひとくちに「映画の診断」といっても、質問に答えるもの、キャラクターに当てはめるもの、 言葉遊びに近いものと、方向性はかなり違います。
映画ランキング性格診断
好きな映画を5〜10作品えらんでランキングにすると、その並びをAIが読み取って 16の性格タイプから診断します。1本ずつではなく順位まで含めて見るのが他と違うところです。登録は不要で、無料で試せます。
ひとつお断りしておくと、この診断はここで紹介した研究に基づくものではありません。占いや心理テストと同じエンターテインメントで、科学的な性格検査ではないので、 結果は気軽に受け取ってください。
MIRRORZ(ミラーズ)
質問に答えていく形式の心理テストを集めたサイトです。「映画館でどこに座る?」 「あなたが主人公の映画は何ジャンル?」など、映画をモチーフにしたものが多数あります。 映画そのものの好みというより、映画を題材にした心理テストを楽しみたい人向けです。
MBTI「キャラ診断」研究所
『相棒』『アベンジャーズ』『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』など、 作品ごとに「自分はどの登場人物に近いか」を診断するものをまとめたページです。 好みを分析するのではなく、キャラクターに当てはめるタイプの診断が中心です。
診断メーカー
利用者が自由に診断を投稿できるサイトで、映画がテーマのものも多数あります。 ただし名前を入れると結果が出る言葉遊びに近いものが中心なので、 性格を測るというより、話のタネとして楽しむ場所です。